去年の大晦日は紅白を観ました。
存命中なのにAI荒井由実と共演させられてしまった松任谷由実1、寸劇に参加しない佐野元春2、「海に抱かれる男」どころか「男を抱く海」か何かになりつつあった加山雄三……多くの見どころがありましたね。皆さんは、印象に残っているシーンはありますか?
私は工藤静香にノックアウトされてしまいました。往年の名曲を熱唱したから?娘との共演?違います。
ファンを「フアン」と呼んだからです。
それはそれはもう、綺麗な鼻濁音でしたよ。残念なことに引用できる動画が残っていない……
とにかく、「フアン」という響きを聞くだけで「芸能!!」という感情が抑えられなくなるのは、私だけではないはずです。ここで私は一つのくだらない仮説を思いついてしまいました。ファンの発音例を集めれば、ファンの発音と本人の自認に関連が見つかるのではないかと……。
おおまかに言えば、「表現活動」「アーティスト」を自認するミュージシャンは「ファン」を、「芸能活動」「芸能人」を自認するミュージシャンは「フアン」を使うんじゃないか、という見立てなんですが、用例が集まってくれば思いもよらない傾向を見出せるかもしれない。もちろん、若くても40代以上のミュージシャンしか対象にならないでしょう。今どき、「芸能人」を自認する若手ミュージシャンがいたとして、「フアン」と発音する訳ないですからね。
時は流れて6月末。YAZAWAがミートソースパスタを食べる動画3を観ていました。
YAZAWAも「フアン」派でした。
でもちょっと待ってください。YAZAWAは動画で何回かファンと口にしていますが、よく聞くと毎回、「フアン」と「ファン」の間で発音が揺れています。その様はまるで、「芸能」と「ロック」の狭間で表現を模索した彼の音楽人生そのものではないでしょうか……?
閑話休題。そもそもファンと言う言葉はいつから使われていたのでしょうか?
レファレンス協同データベースによると、確認できる最古の使用例は1915年。綴り字としても当初から「フアン」と「ファン」で揺れがあったとのことです。落合直文著 芳賀矢一改修『言泉 : 日本大辞典.第5巻』によれば「運動競技又は活動・写真・ラジオなどを熱狂的に見物・聴取する人」とあり、「狂」のニュアンス2はやや薄れているものの現代とさほど変わらない使い方をされていたようです。
では、ファンはどのように発音されていたのでしょうか。残念ながら1910~20年代当時、どう発音されていたのかはわかりませんでした2。この当時の映像、音声資料を調査中ですので、発見があり次第ご報告できればと思います。
というわけで、当サイトでは誰も喜ばないであろう「ファン」と「フアン」を定期的に取り上げていきます。(主に40代以上の?)ミュージシャンがファンを「フアン」と呼ぶ場面、どう見ても「フアン」と言ってそうな高齢ミュージシャンが「ファン」と言っている場面など、用例を見かけた際は、メールやTwitterのDM2、口頭で情報をお寄せください。皆様からのアツ〜い情報提供をお待ちしております。ちなみに、私も「フアン」発音を愛する者として「フアン」呼びを次世代に継承していく所存です。私にファンなんていませんが、ね……。
脚注
- MV
- そこにあるのはシステム 君はいつもはずれてる
- 元動画が消されてしまったので、仕方なくWeb Archiveより引用。